なぜ私たちは『社会運動史研究』を始めるのか

 

 近年、日本では社会運動への関心が高まりつつある。実際に生じた社会運動の動向に注目が集まり、それらに対する研究の進展にも期待がかけられるようになった。

 

 しかし、こうした社会運動の「再発見」の過程で、現在の運動の「新しさ」や「画期性」を強調せんがために、過去の運動を矮小化・平板化して議論が展開されることも、目に付くようになった。かつての社会運動の営みが、安易なイメージで固定され、それに基づいて現代社会の分析が展開される。こうした現状に違和感あるいは危機感を持つ者は少なくないはずだ。

 

 そこで、社会運動史の研究者である私たちは、新しいメディアをつくろうと集まった。メディアの目的は、社会運動史についてのこれまでの知見の共有、さらに現在進行形の調査・研究の成果の公開とそれによる運動史のいっそうの蓄積である。単に、社会運動の過去を恣意的に修正しようとする言説に抗するだけでなく、社会運動史をめぐって研究者がネットワークをつくり討論を重ねる場となるような、プラットフォームづくりを目指す。

 

 私たちはこのメディアを『社会運動史研究』と名付けた。ここで想定する社会運動史は、基本的には20世紀以降の日本を対象とするが、時間的にも空間的にも、そこにのみ厳格に議論を限定させることは社会運動史をかえって貧しくするだろう。むしろ国境を越えていく動きについては、社会運動史のテーマとして自覚的に見出していきたい。また、「研究」という語を、大学等に属する職業的研究者の専有物とは考えてはならない。社会運動の現場で、運動の未来のためにその過去を再検討しようとする営みも、社会運動史の研究である。社会運動史研究の成果は、大学教員の「業績」として消費されるものではなく、運動自体の継承や発展のために生かされうるような知であることが求められている。よって私たちは、このメディアをアカデミズムと運動現場との有機的な結合の場にすることを目指したい。

 

 こうして『社会運動史研究』は、単なる「書物」にとどまるのではなく、それ自体運動的に展開するものとなる。付け加えるならば、私たちは運動史研究の権威や第一人者を名乗ろうとしているわけではない。運動史研究の進展のための踏み石となることも覚悟して、開かれたメディアをつくることに思わず身を投じてしまったに過ぎない。この企ての将来は確約されていない。『社会運動史研究』という始まったばかりの「運動」に、多くの方々に参加していただけることを心から願っている。

 

2018年12月

 

『社会運動史研究』発起人

松井隆志・大野光明・小杉亮子

 

 

E-mail: socialmovementhistory2018@gmail.com